カメレオンはいつ頃から世界の人々に知られるようになったかを、大航海時代からローマ時代と遡ってみましたが、遡ることのできる最後がギリシャ時代です。
ここで登場するのは、古代ギリシャの哲学者アリストテレス。
アリストテレスは万学の祖、西洋科学文明の礎を作った人とも言われていますが、我々一般人にとっては、「そういえば学校の教科書に出てきたなあ・・・何した人だっけ?」・・・くらいにしか認識がないのが現実ですよね。
ところが、彼が著した「動物誌」をパラパラとめくってみるだけで、そのすごさに圧倒されます。
何しろアリストテレスが生まれたのは紀元前384年。
日本が縄文時代から弥生時代に移行してまだ間もない頃です。
そんな時代に、現代でも十分通用する動物に関する詳細な観察記録(全520種)とその分類、発生等の科学的な思索を行っているんですから・・・。
それでは、紀元前の人アリストテレスがカメレオンについてどんな記述をしたかを以下箇条書きで書き写してみます。
【動物誌第11章より】
1)カメレオンは全身の形はトカゲのようである。
2)肋骨は魚類のように下の方へ延びて下腹部に達している。
3)背骨も魚類のように同様に上へと突き出ている。
4)顔つきはブタに最もよく似ている。
5)尻尾は非常に長くて先が細くなり、大部分は革ひものように巻いている。
6)地面からの距離という点ではトカゲよりも高いところにいるが、脚の関節の曲がり方はトカゲのようである。
7)カメレオンの足はそれぞれ2部分に分かれ、各部分はわれわれの親指とそれ以外の手の部分とに対置に似た関係にある。
8)2つに分かれた部分はそれぞれ更にまた少し先で若干の指に分かれる。すなわち前足は体の側(内側)の部分が3指、外側の部分が2指で後足は体の側が2指、外側が3指に分かれている。
9)指には曲爪類(猛禽類)の爪に似た小さい爪もある。
10)全身はワニのようにざらざらしている。
11)目は窪みに入っていて非常に大きく、球状で、体の残りの部分と似た皮膚で囲まれている。
12)真ん中のところに小さな見るための孔があいていて、ここを通してものを見る。
13)ここが皮膚に被われてしまうことはない。
14)目玉をぐるぐる回し、視線をあらゆる方向へ転じ、こうして見たいものを見るのである。
15)体色の変化は空気が入ってふくらむときに起こる。
16)体色はワニとそう違わないような黒い色とトカゲのような灰緑色にヒョウのような黒い斑点の入った色とある。
17)こういう体の変化はカメレオンの体全体に起こるもので、目も尻尾も体の他の部分と共に同じように変わるのである。
18)カメレオンの運動はカメのように極めて緩慢である。
19)死にかけると灰緑色になり、死んでしまっても色はそのままである。
20)食堂と気管の模様はトカゲの場合と同様である。
21)頭と顎と尻尾の付け根の付近にわずかな肉片がある以外、どこにも肉はない。
22)血液も心臓と目と心臓上部との付近およびそれらから出る小血管の中にあるだけで、そこにあるといっても全くわずかなものである。
23)脳も目の少し上にあり、目と連絡がある。
24)目の外側の皮膚をはぎ取ると、細い金属の輪のようなきらきら光るものが目を取り巻いている。
25)カメレオンのほとんど全身にわたって数多くの強靭な、他の動物の膜よりはるかに優れた膜が張られている。
26)全身を切開しても長い間呼吸運動を続けるが、その際心臓は付近の運動は非常に微弱であって、肋骨の付近が特に収縮するが、体の他の部分もしないわけではない。
27)脾臓はどこにも見当たらない。
28)トカゲにように穴にもぐって冬眠する。
いかがでしょう?
なんだか爬虫類図鑑にでも書いてありそうな記述ですよね。
現代人の目線で見ると一部実態にそぐわないものもありますが、7)〜9)などから、実際に実物を見なければ絶対に書けないような詳細な観察の記録であることがわかります。
また、23)〜27)を見る限り、アリストテレスが実際にカメレオンを解剖したことが推測できます。
そして、先日記事にしたローマ時代のプリニウスのカメレオンに関する記述と比較すると結構面白い↓
比べると紀元前のアリストテレスの記述の方が圧倒的に「科学的」ですね^^
というか、後世のプリニウスはアリステレスの動物誌の記述をかなりパクッたうえ、ありもしない空想を加えていることがわかります。(まあ、元々プリニウスの博物誌は当時の空想科学本のような性格だったようですが)
さすがアリストテレスは万学の祖と云われる所以ですね。
アリストテレスは、当時アカデメイアという学校で文学、科学、医学、哲学などの講義を行っていたそうです。
つまりアカデメイアでのアリストテレスの講義がカメレオンの世界デビューと言えなくもないと思うのですがいかがでしょう?^^